ゆず『マボロシ』歌詞考察・現れては消えるマボロシのマホロバ

なぜだろう こんなにも
こころが 泣いている
蝋燭の火が 風に吹かれ
影を揺らすように

あなたのいない暗闇も
独り歩いてゆくと 決めたはず

鮮やかに今 目の前蘇る
すべてだった 憎んで愛していた
あの日のまま あなたはマボロシ?

いつだって 今度こそ
指先 震えている
忘れたくて でも本当は
なにも忘れたくない

後ろ姿に何度も叫ぶ
振り返らない さよならも言わず
繰り返す日々 止まってしまった刻(トキ)

嘘だって それでも構わない
まだ残る 掠れた囁(ささや)き

朽ちてゆく すべての花
そっと運命を受け入れる
ずるいよ あなたへの想いだけ枯れない

鮮やかに今 目の前蘇る
すべてだった 憎んで愛していた
あの日のまま あなたはマボロシ?
いかないで わたしのマボロシ


はじめに

ゆずの『マボロシ』は、2018年11月16日に発売された、配信限定のシングル曲です。

『マボロシ』はショートバージョンの動画が公開されており、公式サイトからも閲覧可能。
雨の降る光景・どこかうつろな、哀しみの滲むゆずの二人の表情・そして全編モノクロームの映像が、『マボロシ』の持つ痛みを孕んだ世界観を表現しています。

また『マボロシ』は2018年10月に放送開始されたNHKドラマ『昭和元禄落語心中』の主題歌。
ゆずが『昭和元禄落語心中』と『マボロシ』の繋がりをどのように表現しているかもこの曲の聴き所と言えそうですね。

では今回、ゆりはるなが、ゆずの『マボロシ』の歌詞を考察・解釈していこうと思います。

タイトル『マボロシ』――浮かび上がる闇と美

『マボロシ』の作詞作曲を担当した北川悠仁さんは、雲田はるこさんによる『昭和元禄落語心中』原作マンガを深く読み込み、『マボロシ』楽曲制作についてインタビューで次のように語っています。

「マボロシ」を制作する上で最初に思ったことは、今までゆずが表題曲の中で現してきたポップさだったり、前向きさだったりを手放し、新たな自分たちの表現を目指すことでした。「昭和元禄落語心中」の物語が持つ闇、その中に潜む美しさを楽曲で追い求めました。

試行錯誤の末、“マボロシ”というテーマが浮かび、このキーワードと物語に背中を押され、今までのゆずにはない、切なく幻想的な楽曲に仕上がりました。

闇・美・マボロシ。

北川悠仁さんが語る言葉から感じられるのは、『マボロシ』において、歌詞がとても「行間」を大切にしているということと、ポップさ、前向きさ、そしてある種の分かりやすさを排除し、説明を大胆に省いた引き算の歌詞であること。

原作の持つ世界から想像力を働かせ、聴く人にも、言葉を聴く力・今までのゆずの楽曲とは違う想像力を要求するタイトルになっているのです。


ゆず『マボロシ』歌詞の考察

心が流したのは何のための涙

なぜだろう こんなにも
こころが 泣いている
蝋燭の火が 風に吹かれ
影を揺らすように

心細くやるせない想いの発露。

今の自分の心が闇と光の間を揺れ動き、憂いと動揺にさらされている様子を、心もとない蝋燭の灯に喩えています。
希望や強さを持ちたいと願う気持ちも、ひと吹きの風で消し飛ばされてしまいそう……。

しかし、なぜ今こんなにも弱く沈痛な想いが溢れてくるのか分かりません。


誰にも分からない別離の先

あなたのいない暗闇も
独り歩いてゆくと 決めたはず

理由は語られませんが、過去に「わたし」は「あなた」との別離を受け入れ、既に独りきり。

自分から選んだ別れだったのかは伺い知れませんが、「あなた」のいない場所は「わたし」にとっては「暗闇」。
その表現からも分かるように、別離はとても辛い選択であったはずです。

そんな暗闇を独りでも歩く、と決めた――。

「そのほうがいい」「その方がお互いのため」だと、自分に言い聞かせていたのかもしれません。
もしくは「もうだめだ」「もう疲れた」「もうついていけない」だったのかもしれません。

あんな素晴らしい世界が本当にあったことなのか

鮮やかに今 目の前蘇る
すべてだった 憎んで愛していた
あの日のまま あなたはマボロシ?

かつて「わたし」は「あなた」と一緒に、美しい世界の中にいました。
その世界だけが「わたし」に愛と希望をもたらしてくれる「あなた」のくれた楽園だった。

そして、いつしか二人の望む未来は違う方向へと向かい、そばを離れ。

過去の中で「あなた」が「わたし」に見せてくれた世界・聞かせてくれた言葉・描いてくれた未来は、今でもありありと思い出せるほどに「わたし」を捉えていました。

しかし、あの頃に見ていた愛の世界が、美しく見えれば見えるほど、もうここにはないのだ、という真実を突き付けられる。
あんな世界が……それどころか「あなた」自体が、「わたしとあなた」が望み、美化し、理想化した虚像だったのかもしれない、とすら思えるのです。


失くせばわたしがわたしでなくなる

いつだって 今度こそ
指先 震えている
忘れたくて でも本当は
なにも忘れたくない

「わたし」はこれまで何度も何度も「あなたと一緒に見た世界」「あなたとこれから見たかった未来」を忘れようとしてきたことでしょう。

しかし、その度に心の中で「忘れたくない」と否定する自分が現れます。

裏腹に気持ちが引き裂かれ、苦しい状況。
「忘れたいのに忘れたくない」……なぜそんな心境に陥ってしまったのか。

まだ、あなたを大事だということが否定できない。

だから忘れてしまうのが怖い……もし忘れてしまえば、自分が自分ではなくなってしまうようで、自分の気持ちが嘘だったと認めてしまうようで、愛と憎しみの両極を行ったり来たりしています。

その本当の表情も見なかった

後ろ姿に何度も叫ぶ
振り返らない さよならも言わず
繰り返す日々 止まってしまった刻(トキ)

顔が見えない姿しか浮かんできません。

「あなた」がどんな表情をしているのか、「わたし」には分からないのです。
自分が見てきた、愛したはずの「あなた」――その人は本当は、一体どんな人だったのか。

「わたし」が知っていた(と思っていた)「あなた」の本当の顔は見えず仕舞いのまま。
憎しみも悲しみも愛も、何を叫ぼうと届くことはありません。


いっそ傷になって残ってもいい

嘘だって それでも構わない
まだ残る 掠れた囁(ささや)き

薄々と、しかし確かに、気が付き始めたこと。
心に描いていたまほろば(=素晴らしい場所・桃源郷)は虚構だった。

しかし「わたし」は、騙されたなどとは思いません。

かつての日々・今も鮮やかな想い出たちが、夢物語であったのだとしても、消えて欲しくない。

縋りついたところで、傷跡になるしかないのかもしれないけれど。

朽ちることをわたしだけ、受け入れていない

朽ちてゆく すべての花
そっと運命を受け入れる
ずるいよ あなたへの想いだけ枯れない

一度咲いた花には必ず枯れる時が来るように、愛も恋も夢も希望も思い出も――若さも、命も、いつか死を迎える時が来る、なくなってしまう。

「わたし」にはそんなこと、既に分かっているし覚悟ができているはずなのに、今になって、自分が、「自分の愛した世界が朽ち果てる」という運命に抵抗し続けていることを思い知ります。

ずるい、あなただけが枯れない――そう独りごちながら。

しかし、かつてのまほろばの世界を、守っていたのは誰なのか。
枯れないように忘れないように、憎み続け愛し続けてきたのは、他でもない自分自身なのです。

忘却が、必ずいつか

鮮やかに今 目の前蘇る
すべてだった 憎んで愛していた
あの日のまま あなたはマボロシ?
いかないで わたしのマボロシ

ずっと鮮やかなものなど、この世に存在しないはず。
しかし「わたしとあなたの日々」だけがどうしても消えてくれない。

消えて欲しくない。
せめてかつて、あの世界はあったのだと信じさせてほしい。

この世に存在しない、本当は見えない、聞こえるはずのない「わたしとあなたの日々」に、いかないで、と未練を叫び、留まることを乞います。

今、まるで目の前にあるかのような鮮やかな世界が、消えてしまう未来が必ずやってくるでしょう。
「わたし」にはまだ、受け入れられません。

嘘でもいいから、想い出の中で、もう少しだけでいいから、あなたと一緒に、あの世界でいたい。
でもきっと、忘れていく。
見えなくなる。
消える。

自分達を自分達たらしめていた愛と憎しみを、思い出せなく日が、いつか必ずやってきます。

まとめ

ゆずの『マボロシ』、初めて聞いた時には、まるでゆずじゃないみたいだ、と、とても驚きました。

始終暗いモノローグのPV映像にも、激しく想像力を掻き立てられます。
明らかに、これまでのゆずはにない雰囲気・曲・詩世界。

『マボロシ』には、ゆずの新たな挑戦、新たな一面が見事に込められています。

今まで、ゆずというグループにあまり馴染みがなかった皆さんも、『マボロシ』をきっかけとして、ぜひ興味を持っていただけたらいいな、と思います。

では、最後まで読んで頂きありがとうございました!



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