米津玄師『メランコリーキッチン』歌詞の意味と考察〜身近な人に向き合い感謝すること

米津玄師yankee

あなたの横顔や髪の色が
静かな机に並んで見えた
少し薄味のポテトの中
塩っけ多すぎたパスタの中

あなたがそばにいない夜の底で
嫌ってほど自分の小ささを見た
下らない諍いや涙の中
おどけて笑ったその顔の中

誰もいないキッチン 靡かないカーテン
いえない いえないな
独りでいいやなんて
話そう声を出して 明るい未来について
間違えて凍えてもそばにいれるように

笑って 笑って 笑って そうやって
きっと魔法にかかったように世界は作り変わって
この部屋に立ちこめた救えない憂鬱を
おいしそうによく噛んであなたはのみ込んだ

それにどれだけ救われたことか 多分あなたは知らないな
明日会えたらそのときは 素直になれたらいいな

あなたの頬や鼻筋が今
静かな机に並んで見えた
部屋に残してった甘いチェリーボンボン
無理して焼き上げたタルトタタン

張りつめたキッチン 電池の切れたタイマー
いえない いえないな
嫌いになったよなんて
話そう声を出して 二人の思いについて
恥ずかしがらないであなたに言えるように

笑って 笑って 笑って そうやって
やっと自由に許すようになれた世界を持って
作り上げた食事のその一口目を掬って
嬉しそうに息を吹いて僕に差し出したんだ

それにどれだけ救われたことか もしもあなたが知ってても
明日会えたらそのときは 言葉にできたらいいな

もう一度!

笑って 笑って 笑って そうやって
きっと魔法にかかったように世界は作り変わって
この部屋に立ちこめた救えない憂鬱を
おいしそうによく噛んであなたはのみ込んだ

それにどれだけ救われたことか 多分あなたは知らないな
明日会えたらそのときは 素直になれたらいいな

米津玄師の『メランコリーキッチン』は、2014年4月23日発売のセカンドアルバム『YANKEE』に収録されています。

アップテンポとミドルテンポの中間ぐらいのBPMですが、細かく刻むパーカッションと、言葉数の多い歌詞をビートを刻むようにメロディに乗せる歌い方が、速い曲という印象と緊張感を感じさせます。

今回は、カラオケやダウンロードでも人気上位に入り、長く愛されている『メランコリーキッチン』の歌詞を考察して行きます。

「あなた」を想っているのは誰か?

一聴すると、『メランコリーキッチン』の「あなた」と歌い手の関係は、恋人同士や夫婦のような恋愛関係であるように思えます。

彼女が出て行って、独りだけのキッチンで憂鬱な時間を過ごしている男が、彼女に対する想いや、揺れ動く心を歌っているというのが、先ず最初に浮かぶ解釈です。

しかし、歌詞をよく見て行くと、それだけではないように感じられる、微妙な違和感が残る表現がでてきます。

その違和感から、「あなた」と歌い手の関係が、恋人同士というだけではないように感じられるのです。

「あなた」が見えたのは机の上の料理の中

あなたの横顔や髪の色が
静かな机に並んで見えた
少し薄味のポテトの中
塩っけ多すぎたパスタの中

「あなたの横顔や髪の色」が見えたのは、机の向こうの椅子の上ではなく、机の上の料理の中です。

「あなた」が家を出て行った恋人であれば、いつも座っていた机の向かい側に、姿が見えるのが自然なように思えます。

さらに、「少し薄味のポテト」や「塩っけ多すぎたパスタ」は、普段料理をしていなかった自分が作ったものだと考えられますが、その中に「あなた」の姿が見えたということにも、違和感を感じます。

恋人が作った料理に、恋人の面影を見るのは自然ですが、自分の作った料理の中に「あなた」が見えるのは何故なのでしょうか。

あなたがそばにいない夜の底で
嫌ってほど自分の小ささを見た
下らない諍いや涙の中
おどけて笑ったその顔の中

次に見たのは、「自分の小ささ」です。

わがままだったり、怒りっぽさだったり、相手の気持ちを思いやれないことだったり、自分を小さいと感じる自分の欠点は色々あります。

そして、「嫌ってほど」小ささを見たという表現からは、それが一晩や二晩だけのことではないように思えます。

以上のことから考えられるのは、次のような解釈です。

『メランコリーキッチン』の歌い手は、自分が作ったあまり上手ではない料理を見て、おいしい料理を作ってくれた「あなた」を思い出します。

その「あなた」は、恋人に限りません。

「あなた」は、身近で自分のために料理を作ってくれたり、世話をしてくれた人です。

そして、「あなた」への想いを歌っているのも、男性に限りません。

女性が、離れて暮らす家族のことを想っていると考えても、不自然ではありません。

独り暮らしが長く、過去の自分の小ささを感じながら、自分のことを支えてくれた身近な「あなた」を思い出しているのが、ここまでの歌い手の気持ちです。

本当の気持ちを「声を出して」伝える

誰もいないキッチン 靡かないカーテン
いえない いえないな
独りでいいやなんて
話そう声を出して 明るい未来について
間違えて凍えてもそばにいれるように

独りだけのキッチンで、主人公は自分が独りだけではなかったことに気付きます。

料理を作ってくれた人がいたから、自分を支え育ててくれた人がいたから、自分はここまで来れた。

そして、「間違えて凍えても」=もしつらい状況になっても、「あなた」と一緒にそばにいて支え合えるように、本当の気持ちを声に出して伝える決心をします。

その本当の気持ちは、身近で支えてくれた人たちへの「感謝」です。

「あなた」に救われてきたことへ感謝する

笑って 笑って 笑って そうやって
きっと魔法にかかったように世界は作り変わって
この部屋に立ちこめた救えない憂鬱を
おいしそうによく噛んであなたはのみ込んだ

それにどれだけ救われたことか 多分あなたは知らないな
明日会えたらそのときは 素直になれたらいいな

「笑って」という言葉は「あなた」だけに向けられた言葉ではありません。

「あなた」と私が一緒に「笑って」過ごせれば、孤独でうまくいかなかった人生は、「作り変わって」行きます。

独りの部屋に立ちこめた「救えない憂鬱」を、「おいしそうによく噛んであなたはのみ込んだ」というのは、歌い手が抱えるさまざまな問題を、「あなた」が取り除いてくれたということでしょう。

身近で見守ってくれた「あなた」が、問題を取り除いてくれていたから、自分は救われてきた。

そして、「あなた」がしてくれたことへの感謝を、歌い手は素直に伝えようと決心します。

「あなた」は愛してくれた人の集合体

あなたの頬や鼻筋が今
静かな机に並んで見えた
部屋に残してった甘いチェリーボンボン
無理して焼き上げたタルトタタン

張りつめたキッチン 電池の切れたタイマー
いえない いえないな
嫌いになったよなんて
話そう声を出して 二人の思いについて
恥ずかしがらないであなたに言えるように

ここで「あなた」の姿が見えるのは、自分の好みではない甘いお菓子です。

自分とは嗜好の違う「あなた」と、自分の間には乗り越えるのが難しい差違があり、張りつめた雰囲気になることもあります。

そんな「あなた」や「あなた」の好きなものを、嫌いだと感じることもありますが、それでもやはり、歌い手は「声を出して」想いを話そうとします。

笑って 笑って 笑って そうやって
やっと自由に許すようになれた世界を持って
作り上げた食事のその一口目を掬って
嬉しそうに息を吹いて僕に差し出したんだ

それにどれだけ救われたことか もしもあなたが知ってても
明日会えたらそのときは 言葉にできたらいいな

やっとお互いを許し合えるように成長した私は、「あなた」と自分の過去を思い出します。

ここで、男性であり女性でもあった歌い手は、一瞬「僕」米津玄師になります。


作り上げた食事のその一口目を掬って
嬉しそうに息を吹いて僕に差し出
」す行為は、赤ちゃんに食事を食べさせる時に見られる光景です。

赤ん坊のように無力だった「僕」は、「あなた」に育てられてきた。

その無償の愛の行為に、自分が救われたことに気付いた「僕」は、重ねて感謝の気持ちを伝えようと歌います。

その「あなた」とは、お母さんお父さん、お姉さん、恋人、友人知人のすべて、「僕」を育て成長を見守ってくれたすべての人たちです。

終わりに

『メランコリーキッチン』の「キッチン」は、恋人だけでなく、自分を見守り育ててくれた人がいる場所の象徴です。

キッチンで食事の準備をする家族や恋人の姿に、安らぎや喜びを感じたことがある方は多いでしょう。

また、「メランコリー」は、憂鬱と訳されることが多い言葉ですが、理由のない悲しみや説明できない悲しさも意味します。

説明できない悲しさを感じながら独りでキッチンにいた米津玄師は、自分から孤独に逃げ込んでいたことが「メランコリー」の原因だったことに気付き、自分を変えようと行動します。

それが、自分を愛し育ててくれた人、支えてくれた人の存在を認め「感謝」を伝えることでした。

「間違えて凍えても」つらいときでも、そばにいて支え合えるように。

『メランコリーキッチン』は、身近で自分を愛してくれる大切な人たちへの「感謝」の曲です。

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