米津玄師『Lemon』歌詞の意味・徹底考察~ドラマと悲劇が生んだ名曲~

夢ならばどれほどよかったでしょう
未だにあなたのことを夢にみる
忘れた物を取りに帰るように
古びた思い出の埃を払う

戻らない幸せがあることを
最後にあなたが教えてくれた
言えずに隠してた昏い過去も
あなたがいなきゃ永遠に昏いまま

きっともうこれ以上 傷つくことなど
ありはしないとわかっている あの日の悲しみさえ

あの日の苦しみさえ
そのすべてを愛してた あなたとともに
胸に残り離れない 苦いレモンの匂い
雨が降り止むまでは帰れない
今でもあなたはわたしの光

暗闇であなたの背をなぞった
その輪郭を鮮明に覚えている
受け止めきれないものと出会うたび
溢れてやまないのは涙だけ

何をしていたの 何を見ていたの
わたしの知らない横顔で

どこかであなたが今 わたしと同じ様な
涙にくれ 淋しさの中にいるなら
わたしのことなどどうか 忘れてください
そんなことを心から願うほどに
今でもあなたはわたしの光

自分が思うより 恋をしていたあなたに
あれから思うように 息ができない
あんなに側にいたのに まるで嘘みたい
とても忘れられない それだけが確か

あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ
そのすべてを愛してた あなたとともに
胸に残り離れない 苦いレモンの匂い
雨が降り止むまでは帰れない
切り分けた果実の片方の様に
今でもあなたはわたしの光

米津玄師『Lemon』の概要

米津玄師さんの楽曲『Lemon』は 2018年3月14日にリリースされたメジャー8枚目のシングルです。
歌詞中の「レモン」という謎めいたフレーズが印象的です。
今回はそんな謎多き『Lemon』の歌詞を考察していきましょう。

『Lemon』の意味とは

『Lemon』とはサビに登場するメインフレーズで、日常生活でも馴染みのある果物「レモン」のことです。

「なぜオレンジではなくレモンをタイトルに選んだのか」という
視点で考えることで幾らかのヒントが得られます。

オレンジのような「甘さ」はなく「痛みを伴う強い刺激」
印象づけるレモンが選ばれたのだと読み解きます。
また英語の「lemon」には「出来損ない」「欠陥品」という意味もあります。

歌詞中の主人公は自分を人格面で欠陥のあるものとして見ています。
大切な人に支えられてようやく一人前であることも認めています。
まさに主人公を表現するのに『Lemon』は適切なのです。

曲調が暗いテイストになっているのは、ドラマ『アンナチュラル』主題歌として書き下ろされた点と関連があるように思えます。
ドラマの詳細については下記のサイトで扱っていますので合わせてご覧下さい。
https://jiyuninaru.com/dorama/unnatural/

人の死」を扱った歌詞に合わせて『Lemon』のMVも教会で撮影されています。
歌詞の中で「悲しみ」「苦しみ」といった表現が多いこともドラマ題材を強く
意識したと考えられます。

加えて歌詞に大きな影響を与えることになった一つの出来事がありました。
作曲中に米津玄師さんは大好きなおじいさんを亡くしてしまったのです。

当初、米津玄師さんは「傷ついた人への優しさ」をテーマに曲を作成しようと考えていたものの、作曲中に身内の死を経験し「愛する人を悼む曲」へと変更したようです。
ですから曲全体にマイナー調が多く暗いテイストになっているのも頷けます。

米津玄師さん自身「自分は死にまつわるようなことをずっと歌ってきた人間だか
らそれを音楽にするというのは言ってみればなじみの深いものだったんです」

語っています。

死をテーマにした『Lemon』はまさにレクイエムと言えるでしょう。

『Lemon』歌詞の意味・考察

愛する人との死別―おぼろげな回想―

夢ならばどれほどよかったでしょう
未だにあなたのことを夢にみる
忘れた物を取りに帰るように
古びた思い出の埃を払う

戻らない幸せがあることを
最後にあなたが教えてくれた
言えずに隠してた昏い過去も
あなたがいなきゃ永遠に昏いまま

今回は一人の主人公を主軸に考察を進めていきたいと思います。

ここで「あなた」という二人称が登場します。
主人公にとって最愛の人物であったことを歌詞から理解できます。

歌詞の前半で主人公は「夢ならばどれほどよかったでしょう」と語っています。
このフレーズから「あなた」で表わされている愛する人が手の届かない場所へ行ってしまったことを示唆しているようです。

「忘れた物を取りに帰るように」とは、主人公がいなくなった愛する人を思い出してしまう様子を伝えています。

「古びた思い出の埃を払う」ように昔の断片的な記憶を鮮明にしようと日々黙想しているようです。

戻らない幸せという言葉が「愛する人との距離が遠く離れている」ことを連想させます。

暗いではなく「昏い」と表現している点にも注目できます。
「昏い」は日が暮れてあたりがぼんやりとはっきりしない状態を表わします。
これは希望のない日々を過ごしてきた主人公が、愛する人を人生の道しるべにしていたこと、そうした存在を失ったことでまた希望を失ったことを意味しています。

まっすぐな愛の強さ

きっともうこれ以上 傷つくことなど
ありはしないとわかっているあの日の悲しみさえ

あの日の苦しみさえ
そのすべてを愛してた あなたとともに

ここで主人公は「これ以上傷つくことなどありはしないとわかっている」と自覚しています。
愛する人を亡くした主人公の耐え難い心痛が伝わってきます。

続く部分では「あの日の悲しみ」「あの日の苦しみ」と愛する人を失った日の回想がされています。
主人公が愛する人は自分が感じるすべての悲しみや苦しみを理解して愛してくれたのです。

感情移入の上手な人を失った主人公の悲しみを幾らか理解することができます。

思い出が漂わせる刺激とほろ苦さ

胸に残り離れない 苦いレモンの匂い
雨が降り止むまでは帰れない
今でもあなたはわたしの光

ここでの「苦いレモンの匂い」という比喩表現は、愛する人との死別が残した痛みを伴う刺激や苦い思いを伝えています。
ここでは甘さのような温かい感情はなく重々しい悲嘆めいた感情が吐露されています。

また英語の lemon が意味するように主人公は「自分はあなたがいないと出来損ない」だと自覚しています。

続く部分では「雨が降る止むまでは帰れない」という謎めいたフレーズが挿入されています。
これは文字通りの雨というより「視界が悪く身動きしずらい状況」の比喩
と理解するほうが適切でしょう。

傘を持たない人が雨宿りをしている場合、雨が降り止むという状況改善が見られなければ帰れません。

同じように愛する人を亡くした悲しみが癒えるまでもとの生活には戻れないということを伝えているように思えます。

注目したいのはこの部分の歌詞で主人公は自分を一人称の「わたし」と表現しています。

主人公は「あなた」を鮮明に心に描き続けることで希望という光にし、一人で強く生きていくこと決意したのでしょう。
主人公が一個人として自分を認めたことを「わたし」は伝えているように感じます。

暗中模索の日々

暗闇であなたの背をなぞった
その輪郭を鮮明に覚えている
受け止めきれないものと出会うたび
溢れてやまないのは涙だけ

主人公は死別の悲しみから抜け出せず「暗闇」の中に身を潜めます。

「なぞった」という表現から愛する人の面影を思い出しています。
「背をなぞった」のは愛する人がいつも自分の先を行って導いてくれてたことを示しています。

「輪郭を鮮明に覚えている」というフレーズからも、愛する人の表情1つ1つが忘れられないことが理解できます。

愛する人との死別後に「受け止めきれない」出来事がたくさん生じたものと思われます。
その都度、主人公は「あの人が居てくれたら助けてくれたし話を聞いてくれただろう」と思って涙が溢れてきたのでしょう。

観点の変化

何をしていたの 何を見ていたの
わたしの知らない横顔で

どこかであなたが今 わたしと同じ様な
涙にくれ 淋しさの中にいるなら
わたしのことなどどうか 忘れてください
そんなことを心から願うほどに
今でもあなたはわたしの光

この部分の歌詞はとても興味深い点があります。

それは前述までの「わたし」と「あなた」が入れ替わる点です。

前述での「わたし」は愛する人を失った主人公で「あなた」は亡くなった人でした。
しかしここでは入れ替わって歌詞が綴られています。

亡くなった人からの観点でフレーズが構成されています。

「何をしていたの」「何を見ていたの」という問いかけを生きている「あなた」に投げかけているようです。
そして「もう居ない私を探したり思い見ようとしないよう」に述べています。

「わたし」である人は、自分のせいで主人公が「淋しさの中」にいて囚われているのなら、自分を忘れて楽になって欲しいと告げています。

歌詞中でお互いを「光」としている点からこれまで支え合い希望にしていたことが読み取れます。

自分と正直に向き合う

自分が思うより 恋をしていたあなたに
あれから思うように 息ができない
あんなに側にいたのに まるで嘘みたい
とても忘れられない それだけが確か

この段階で初めて「自分」という一人称が現れます。
愛する人を亡くした「わたし」が自分という人間をより強く自覚するようになったのでしょう。
「わたし」のときに感じていた以上に恋しく思っていたと実感します。

主人公に強い感情が芽生えたと同時に、喪失感が全身を襲い「息ができない」状態に陥っています。

主人公は愛する人が側にいたときの距離と、他界して遠く離れたことを比較しています。
愛する人が自分からあまりにも離れた場所にいると感じ「まるで嘘」つまり存在しないかのように思えてしまいます。

さらには愛する人がいないという事実が「嘘」であって欲しいという切実な願いも読み取れます。

愛する人が遠くに行ってしまったという事実は認められません。
しかし自分に希望をもたらしていた日々の思い出が今も拭いきれず心に残留します。

思いの決別

あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ
そのすべてを愛してた あなたとともに
胸に残り離れない 苦いレモンの匂い
雨が降り止むまでは帰れない
切り分けた果実の片方の様に
今でもあなたはわたしの光

ここでは愛する人に先立たれた側が抱く気持ちを再び強調しています。

これだけ長い時間をかけても記憶が色あせないのは「すべてを愛してたあなた」と共に過ごしたからです。

忘れようとしても思いの中で辛さや痛みを伴う苦い気持ちを「レモンの匂い」のようだと歌っています。

しかし最後のフレーズで主人公は自分の気持ちに区切りをつけています。

「切り分けた果実の片方」と述べて、自分たちが確かに物理的に分かたれていることを認めています。
もう逢えないという事実を甘受したのかもしれません。

それでもすべてを忘れることは出来ません。
「今でもあなたはわたしの光」と述べて、生きる上での希望としていくことを明らかにしています。

まとめ

いかがでしょうか。

一人称の「わたし」と二人称の「あなた」の入れ替わりや
新たに表現される「自分」という一人称に 米津玄師さんのリリックセンスを感じました。

『Lemon』が印象付ける「痛みを伴う刺激や苦い思い」を歌詞から考察することができました。

今後の米津玄師さんの活動と次回作にも注目していきたいと思います。

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