竹内まりや『Plastic Love』歌詞の意味を考察・解釈

突然のキスや熱いまなざしで
恋のプログラムを狂わせないでね
出逢いと別れ上手に打ち込んで
時間がくれば終わる Don’t hurry!

愛に傷ついたあの日からずっと
昼と夜が逆の暮らしを続けて
はやりのDiscoで踊り明かすうちに
おぼえた魔術なのよ I’m sorry!

私のことを決して本気で愛さないで
恋なんてただのゲーム 楽しめばそれでいいの
閉ざした心を飾る 派手なドレスも靴も 孤独な友だち
私を誘う人は皮肉なものね いつも彼に似てるわ
なぜか思い出と重なり合う
グラスを落として急に涙ぐんでも わけは尋ねないでね

夜更けの高速で眠りにつくころ
ハロゲンライトだけ妖しく輝く
氷のように冷たい女だと
ささやく声がしても Don’t worry!

I’m just playing games I know that’s plastic love
Dance to the plastic beat Another morning comes
I’m just playing games I know that’s plastic love
Dance to the plastic beat Another morning comes

はじめに

『Plastic Love』とは1984年4月25日にリリースされた竹内まりや通算6枚目
のアルバムに収録された楽曲です。
作品が生まれてから35年の時を経て今も大ブレイクしている殿堂入りした名曲
です。

当時、アレンジ・プロデデュースには山下達郎さんが加わっており手腕を振る
っていました。
しかし発売当初の人気はそこそこでありレコード売上も1万枚以下と低迷しまし
た。

ブレイクの火種となったのは2010年代後半、本楽曲は世界中で巻き起こった80年代の日本のシティ・ポップやファンク再評価の波であり、海外を中心にその評
価を徐々に高めていきました。

そして忘れもしないのが2017年にユーチューブ界を騒がせた伝説的事件です。
同年7月に非公式にアップロードされた同曲の動画が、SNS上で多くのミームを
生みながら当時、動画再生回数2400万回以上という異常な数を記録しました。

その熱は冷めることなくむしろ温度を増していき海外を中心に知名度を上げて
いったのです。

さてそんな伝説級の人気を誇る名曲の新たなショートバージョンMVが公開され
ました。
監督は有名アーティスト米津玄師さんのMVを手掛ける林響太朗さんが担当され
ました。

林響太朗さんはユーチューブ上で作品に関する思い入れを次のように語っておら
れました。

時代の波に埋もれないこの名曲を、令和になったこの年に改めて世に放たれたと。それに監督として関われたこと。大変光栄でした。 この曲が生まれた時代への尊敬と、僕ら同世代の解釈を織り交ぜ一丸となって作りました。ぜひご覧ください。


https://www.youtube.com  ユーチューブ より

「昭和」から「令和」に跨る人気を壊さずに丁寧に映像化したことを上記の
コメントから理解することができますね。
映像から新たな解釈を織り交ぜながら本考察を進めていきたいと思います。

タイトル『Plastic Love』 とは

タイトルは2つの英単語が組み合わさった造語です。
「Plastic」とはプラスチックのことであり材質や素材を表します。
「人為的」や「無機質」といったイメージを与える用語でもあり
ます。

ですからそれに「Love」を加えて和訳するなら「作られた愛」、
「無機質な愛」となるでしょう。

そして当時、今作の歌詞については「都会暮らしの若い女性による自由恋愛」と
いう極めてフィクショナルなテーマを独自のセンスで描いていると言われていま
した。
この点から本考察の主人公像が浮き彫りになったと思います。

タイトルと併合して考察しますと、「都会暮らしの女性が誰かによって作られた
無機質な愛を自由気ままに楽しむ」という内容が歌詞に織り込まれているのだと
解釈できます。

『Plastic Love』歌詞の意味

人為的で無機質な愛

突然のキスや熱いまなざしで
恋のプログラムを狂わせないでね
出逢いと別れ上手に打ち込んで
時間がくれば終わる Don’t hurry!

都会に住む主人公の女性は20代くらいでしょうか。
歌詞後半でお酒を呑んでいるような描写があります
から10代ではないのだと思われます(日本基準)

歌詞冒頭で彼女は「情熱的で本気の恋」を煩わしく
思っています。
なぜなら自分の恋愛ペースが乱され調子が狂うから
だと歌詞から判断できます。

彼女はどこか影があり退廃的な雰囲気に包まれてい
ます。

恋愛に関して「プログラム」「打ち込んで」という
表現を用い今の自分の恋愛観は「人為的であり無機
質」であると歌っているのです。

出会いも別れのタイミングも自分が一番良いときに
自分のタイミングで操作したい、そんな彼女の気持
ちを歌詞から垣間見ることができます。

すべての恋愛は「時間がくれば終わる」と希望する
ことに匙を投げたような表現を彼女はしています。
だから「Don’t hurry!」急がないでじっくりゆっく
り恋を楽しむようにも述べています。

愛に傷ついたあの日から

愛に傷ついたあの日からずっと
昼と夜が逆の暮らしを続けて
はやりのDiscoで踊り明かすうちに
おぼえた魔術なのよ I’m sorry!

私のことを決して本気で愛さないで
恋なんてただのゲーム 楽しめばそれでいいの
閉ざした心を飾る 派手なドレスも靴も 孤独な友だち
私を誘う人は皮肉なものね いつも彼に似てるわ
なぜか思い出と重なり合う
グラスを落として急に涙ぐんでも わけは尋ねないでね

ここで冒頭で彼女が「人為的で無機質」な愛に酔いしれる
ようになったのかがわかります。
理由は「過去に愛に傷ついた」ことが原因でした。
「あの日からずっと」とあるように長い期間苦しみました。

愛に傷ついた日から彼女の生活は昼夜逆転という形で変化を
遂げました。
「Disco」に通いつめ踊り狂うことで過去を忘れたいと思った
のだと歌詞から読み取れます。

確かに1980年代に日本でも第2次ディスコブームが巻き起こり
ました(お立ち台でセンスを振るイケイケのお姉さん 古)
彼女もそんなブームに乗った一人なのでしょう。

このタイミングで彼女は恋愛を「ゲーム感覚」で楽しむように
なったことがわかります。
それでも真の意味で幸福または満足などという感情は生まれま
せんでした。

「閉ざした心」という表現からもその点が裏付けられています。
派手なドレスも靴も表面上を美しく見せ一時的な満足感を彼女
にもたらしますが、踊り終わったあとには消失するようなもの
だったに違いありません。

その点も「孤独な友達」という表現が裏付けています。

彼女が出会う異性は決まって過去に愛した男性と酷似していま
した。
彼女はある特定のタイプの男性を引き寄せてしまう魅力がある
のでしょう。

過去の彼と目前の男性が完全にリンクすると「閉ざされた心」
が開いて良い想い出と悪い想い出が同時に溢れだします。
彼女は耐えきれずに泣き出してしまいます。
それでも出会ったばかりの男性に過去を語りたくはないのです。

熱の通わぬ愛だとしても

夜更けの高速で眠りにつくころ
ハロゲンライトだけ妖しく輝く
氷のように冷たい女だと
ささやく声がしても Don’t worry!

I’m just playing games I know that’s plastic love
Dance to the plastic beat Another morning comes
I’m just playing games I know that’s plastic love
Dance to the plastic beat Another morning comes

MVを見る限り「夜更けの高速で眠りにつく」とは彼女
が高速を走るタクシーの後部座席で短い眠りにつくこと
を指しているようです。

タクシーを降りて男性とホテルに入る彼女を目撃したホ
テル清掃員は「氷のように冷たい眼差しをした女」だと
感じたかもしれません。

彼女は周囲の変わり映えしない評価に耳を貸しません。
「氷のように冷たい女」という定評に当惑も怒りも感じ
ることなく気にしないで生活しています。

それはまるで彼女の全身が「Plastic」で出来ており熱も
感情も気持ちも痛みも全くない状態になってしまったよ
うに思えたことでしょう。

特に今作MV序盤の女性の無機質な表情がその点を物語
っていました。

英語の部分を簡潔に要約すると「ゲームのように恋愛を
楽しんでいること」「ビートに合わせて踊って新たな朝
を迎える」という意味になります。

本気や真剣身を伴わないゲーム、そして朝が来ればリセ
ットされるような恋愛、彼女の恋愛観を変える人は現れ
るのでしょうか。

さまざまな面で開けている都心で生きる彼女の心だけが
今日も固くその扉を閉ざしていたのでした。

まとめ

過去の傷を決して埋め合わせることができない孤独の女性
をリアルに歌詞の中で描いていたと思います。
当時、このような生き方をしている人が少なからずいたの
でしょう。

そして人気の出始めた2000年代から歌詞中の主人公に共感
し始める人たちが増加したのは間違いありません。

満たされない気持ちを酒や踊り、そして遊び相手で満たす
「ワンナイトラブ」な考えが横行していたのかもしれません。

さらに今作が海外DJの間で大ブレイクしている点からも歌詞
だけではなく80sサウンドの魅力溢れる部分とアダルティ感
を満喫できるローテンポなビートが決め手であったと筆者は
感じました。

時代を超えた名作が令和でより一層輝いて、多くの人に届く
ことを筆者も切望しています。

改めて竹内まりやさん、奥深く意義深い作品を有難うござい
ました。

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