椎名林檎&宇多田ヒカル『浪漫と算盤』歌詞の意味を考察・解釈

主義をもって利益を成した場合は
商いが食い扶持以上の意味を宿す
義務と権利双方重んじつつ飽く迄
両者割合は有耶無耶にしていたい

玄人衆素人衆皆の衆賛否両論
頂戴 置きに行こうなんぞ野暮
新しい技毎度繰出したいです

苦しくとも僕には理解っている
貴方も同じ様に一人生きている

宇宙を因数分解したとこで自由と
孤独だけが待っているんでしょう

玄人で素人で労働者で生活者の侭
おもしろおかしく居させて
煩わしい役毎度請け負いたいです

虚しくとも 貴方を思うたび
僕は許されて行く 夢と現を結わえて

きっと、そう浪漫抱えたら算盤弾いて
両極のど真中狙い撃てお願い勇気をくれ

疑わしい相手なら何時だって
自分ずっと進化したいよね

答え合わせ 貴方を知るほど
僕は正されて行く 捨てたものじゃない
ただ生きようと

歌詞考察の前に

『浪漫と算盤 LDN ver. 』とは2019年10月31日にネット上で公開された楽曲です。
同年11月13日リリース 椎名林檎ベスト・アルバム 『ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~』に収録されています。

同年11月2日にはデジタル配信がスタートされます。
動画再生回数は公開から僅か1日で40万を超え急上昇ランク1位に輝きました。

通算3回目のデュエットとなる椎名林檎さんと宇多田ヒカルさんからコメントが
寄せられていましたのでご紹介します。

◆椎名林檎

たいへん面白いプログラムでした。ご参加くださった宇多田ヒカル氏はじめ、村田陽一せんせい、演奏家のみなさんへ、改めてお礼申し上げたいです。ありがとうございました。

新たな作品に着手する際、わたしはいつも、なにかしら初めての試みをするようにしております。

今回はとにかく、和声から旋律からなにから、いつもみたく扇情的にせぬよう注意深く編みました。

ヒカル氏の声の成分がよく馴染む、酸素や水のような曲にしたくて。いつになくまろやかな響きを、味わっていただけますと幸いです。

言葉についても、本作では少々挑戦しています。或る日ヒカル氏が「それはゆみちん(椎名のこと)ならうまいこと書きそう」などと共通の知人らと話していたらしいテーマが「ロマンとソロバン」でした。半年ほどまえ小耳に挟んで以来「受けて立とうぞ」と力み続けた結果、仕上がったのがこの作品です。唄うのにやや照れました。

なお、二十年間、頑なに「国産採れたて」に拘って参りましたものの、これからさきはもっとのびのび自由奔放に書きたいです。どうぞ今後なお一層、よろしくお願い致します。

(などなど現場から愛を込めて「初めまして」「改めまして」のベスト盤もご用意しました。)

https://www.excite.co.jp/news/article/Cinra_20191101_sheenaringo/?p=2
exciteニュースより

◆宇多田ヒカル

林檎ちゃんとのデュエットは3回目になりますが、過去のカーペンターズのカバー、私の楽曲に客演していただいたケース、を経て、今回は椎名林檎ワールドどっぷりの新曲とMVに参加できてとても嬉しいです。長丁場のMV撮影の待ち時間も、こんなに楽しく笑って過ごしていいのかというくらい楽しく過ごせて、全てが贅沢な時間でした。これからが楽しみです。

https://www.excite.co.jp/news/article/Cinra_20191101_sheenaringo/?p=2
exciteニュースより

椎名林檎さんのコメントから以下の点を把握できました。

扇情的(感情を煽ったり情欲をそそること)にならないように仕上げた。
まろやかな響き

確かにいつものセクシー&アダルティな気配は控え目だったと思います。
いや、扱っている題材がアダルティではあるのですが。。

宇多田ヒカルさんのコメントからは制作段階から楽しく過ごしていたこと、そしてお二人の仲睦まじい様子が観察できますね。

さて今作の曲調やMVの内容に少し触れてみたいと思います。

同曲は椎名林檎さんが作詞・作編曲とベーシックトラックを担当されました。
Jazz調で奏でられるピアノが独特の世界観にグッと引き込みます。
イントロからサビまでは大人しめの音使いなのですが、サビではブラスバンドが加わり解放感が漂っていました。

今作MVを監督されたのは児玉裕一氏です。

終始モノクロで映し出される映像はさながら1本の映画を観ているようでした。
色のない世界にこれほど色気を感じたことは筆者もありませんでした(笑)

それではさっそく気になる歌詞の考察を始めていきたいと思います。

タイトル『浪漫と算盤 LDN ver.』とは

まずタイトルの漢字の部分ですが「ロマン」「ソロバン」と読みます。
「LDN」「ロンドン」を指しています。
英ロンドンのアビー・ロード・スタジオで、ロンドンフィルハーモニック・オーケストラの演奏の下で収録されたことが深く関係しているのでしょう。

タイトルの響きからある一冊の有名な本のタイトルを思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。
渋沢栄一さんが書いた「論語と算盤」です。

論語は、孔子が語った道徳観を弟子たちがまとめたものです。
渋沢栄一さんはその教えを基盤とし、資本主義一遍に染まる社会を道徳で律することを志しました。

上記をさらに簡略化して述べると次の2点で言い表せると思います。
論語で人格面(物事への姿勢、道徳)を磨く
利益への追及

そうした彼の生き方や考え方が歌詞の中で取り入れられていると筆者は解釈しました。

『浪漫と算盤 LDN ver.』歌詞の意味

人格と利益の両立

主義をもって利益を成した場合は
商いが食い扶持以上の意味を宿す
義務と権利双方重んじつつ飽く迄
両者割合は有耶無耶にしていたい

歌詞冒頭に出てくる主義とは前述でも取り上げた資本主義のことだと考えられます。

「資本主義」とは生産手段を資本家・企業者の階級が所有し、自分たちの利益追求のために労働者を働かせて生産を行う経済体制です。

その点が続く商いの「食い扶持」と対比させられています。
「食い扶持(くいぶち)」とは食費のことです。

ですから
利益を生み出すことはお金を消費し生活を維持することに勝る
という原則に触れているようです。

固い言葉を並べていますが、支出より収入が大事なのは当たり前の話ですね。
それでも働いて成功することの大切さを強調しているようです。

「義務と権利」という言葉は消費者側に立った視点で書かれているのでしょう。
前述で述べた資本家・企業者に対する、あるいは社会に対する義務と自分達が持つ権利の割合について言及されているようです。

当然、資本主義の世の中で(現在でも)義務の割合が大きいと消費者は感じてしまいます。
ですから義務と権利の割合が実質7:3のような関係であっても「有耶無耶」にする、つまり考えたくないという気持ちを表現しているように思えました。

望めない賛同一致

玄人衆素人衆皆の衆賛否両論
頂戴 置きに行こうなんぞ野暮
新しい技毎度繰出したいです

苦しくとも僕には理解っている
貴方も同じ様に一人生きている

「玄人(くろうと)」は仕事などの分野で熟達し経験のある人であり「素人」はその反対の人と言えます。

対象的なタイプの人たちが一つの論題について話し合っても賛否両論が巻き起こるのは必然です。

世の中の人たちを2タイプに分類するなら上記の2タイプにわかれ、政治や労働においても賛同一致が見られないという点を指摘しているのかもしれません。

企業においても社会においても人の上に立つ人たちが「置きに行く」つまりやんわりとすべての人を納得させようとする取り組みをしても、野暮であると歌詞は述べているようです。

ここでの「僕」「貴方」は前述の渋沢栄一さんや孔子のような考え方に感化された人たちを指すのだと思います。

歴史の常識や資本主義の風潮に流されなかった彼らのように、自分達の正しいと思う生き方・考え方を持っているのでしょう。

答えのない分野

宇宙を因数分解したとこで自由と
孤独だけが待っているんでしょう

ここでは「宇宙」が引き合いに出されています。

宇宙は人類にとって未だ解明されていない点が多く謎めいています。
「因数分解」とは「足し算・引き算で表されている数式をかけ算の形に変形する」ことです(式の解析を目的としているよう)

上記をまとめると、わからない分野を長い時間をかけて解析するのは自由だが
努めて解答が得られないのであれば孤独が待っている
という意味だと解釈しました。

考えることについては、人によって価値のつけ方が異なるでしょう。
筆者は常に考え、自身を向上させる何かに繋げることは大事だと思っています。
皆さんはどう思われますか。

曖昧な合間を通って

虚しくとも 貴方を思うたび
僕は許されて行く 夢と現を結わえて

きっと、そう浪漫抱えたら算盤弾いて
両極のど真中狙い撃てお願い勇気をくれ

ここで僕で示される人物が「虚しく」感じているのは、社会や周囲の人たちと逆行した考え方や生き方をしているからでしょう。
それでも「貴方」で示される人物を思い出し「自分は間違ってない」奮起させられる様子が目に浮かびます。

彼は周囲から白い目で見られ「夢を見るな、現実を見ろ」と嘲笑されるかもしれません。
しかし、彼は夢と現実を1本の紐で結わえるように現実のものとすることをあきらめません。

彼は貴方や昔の先人の言葉を思い出し「浪漫」つまり情熱的な生き方を志したのでしょう。

算盤を彼が最初に弾かないのは、物事に取り組むことよりそれを行なう動機を重要視したことが理解できます。
これは『論語と算盤』の中でも似たような点が論じられていました。

現代はどんな仕事につくか、どの学校に入るのか、何を勉強するのかなどが重要視される世の中だと感じます。
しかしそれと同じ、いやそれ以上にどうしてその仕事につくか、なぜ入校するのか、勉強する意味はなにかという点は重要なのだと改めて感じました。

まず浪漫を持ってから算盤を弾く姿勢はとても斬新でした。。

まとめ

いかがだったでしょうか。
過去に流し読みした本を今になって読み返すとは思ってませんでした(汗)

音楽というより歴史や思想に寄った考察になってしまったと少々反省しております。
MVで二人がテトリスをやっているシーンは、互いに最適解を求め合い、理解しようとする様を描写しているように感じました。

このように崇高な考え方を持つ人たちで感化し合い、互いに成長していくのはとても大切ですね。
二人が物理的に離れても、同じ考えで結ばれているという点に安堵できるのかもしれませんね。

椎名林檎さんと宇多田ヒカルさんの美声の掛け合い、そして溶け合う様子は魅力的でした。

お二人の今後の活動と次回作に期待し注目していきたいと思います。
素敵な作品をありがとうございました。

コメントを残す