椎名林檎『獣ゆく細道』歌詞の意味・考察と解説

 

この世は無常 皆んな分かつてゐるのさ

誰もが移ろふ さう絶え間ない流れに

ただ右往左往してゐる

 

いつも通り お決まりの道に潜むでゐるあきのよる

着脹れして生き乍ら死んぢやゐあないかとふと訝る

 

飼馴らしてゐるやうで飼殺してゐるんぢやあないか

自分自身の才能を

あたまとからだ、丸で食い違ふ

人間たる前の単に率直な感度を頼つてゐたいと思ふ

さう本性は獣

 

丸腰の命をいま野放しに突走らうぜ

行く先はこと切れる場所 大自然としていざ行かう

そつと立ち入るはじめての道に震へてふゆを覚える

紛れたくて足並揃へて安心してゐた昨日に恥ぢ入る

 

気遣つてゐるやうで気遣わせてゐるんぢやあ 厭だ

自己犠牲の振りして

御為倒しか、とんだかまとゝ

謙遜する前の単に率直な態度を誇つてゐたいと思ふ

さう正体は獣

悴むだ命でこそ 成遂げた結果が全て

孤独とは言ひ換へりやあ自由 黙つて遠くへ行かう

 

本物か贋物かなんて無意味

能書きはまう結構です

幸か不幸かさへも勝敗さへも当人だけに意味が有る

 

無けなしの命がひとつ だうせなら使ひ果たさうぜ

かなしみが覆ひ被さらうと 抱きかゝへて行くまでさ

借りものゝ命がひとつ 厚かましく使ひ込むで返せ

さあ貪れ笑ひ飛ばすのさ 誰も通れぬ程

狭き道をゆけ

はじめに

2018年10月に発売された椎名林檎とエレファントカシマシの宮本浩次の連名で発表されたシングル、『獣ゆく細道』。

椎名林檎は2017年にウルフルズのトータス松本ともデュエットを行っており、2018年のデュエット相手は誰になるのか注目される中発売された曲です。

発売前から大きな話題を集めたこの曲。果たして歌詞はどのようなものでしょうか。

歌詞考察

人々のありのままの姿を描く

この世は無常 皆んな分かつてゐるのさ

誰もが移ろふ さう絶え間ない流れに

ただ右往左往してゐる

頭サビです。

描かれるのはこの世を無常と知りながら時代の流れに弄ばれる人々の姿。

先に獣ゆく細道のテーマをお伝えすると、ありのままの自分でこの世を生き抜けというものです。

しかしここではそんなメッセージは無く単純に人々の姿が描かれます。

恐らくそんな時代の流れに弄ばれて思い通りに生きられない人たちへの歌だということを伝えるために、あえてこの歌詞を冒頭にもってきたのでしょう。

実際にこの部分を聞いて自分のことだと思う方も多いのではないでしょうか。

己の感覚を頼りに

いつも通り お決まりの道に潜むでゐるあきのよる

着脹れして生き乍ら死んぢやゐあないかとふと訝る

飼馴らしてゐるやうで飼殺してゐるんぢやあないか

自分自身の才能を

あたまとからだ、丸で食い違ふ

人間たる前の単に率直な感度を頼つてゐたいと思ふ

さう本性は獣

一番Aメロ〜Bメロです。

「いつも通り お決まりの道に潜むでゐるあきのよる」

「生き乍ら死んぢやゐあないかとふと訝る(いぶかる)」

「飼い慣らしてるようで飼殺してゐるんぢやあないか 自分自身の才能を」

といった歌詞により頭サビで描かれた自分の人生に疑問を持つ人々の姿がより具体的に描写されます。

そして、「人間たる前の単に率直な感度を頼つてゐたいと思ふ」という部分から自分らしく生きるためにはまず己の感覚を頼りにすることが大事だと歌われます。

余談ですが椎名林檎が作詞し、2007年に発表された東京事変の楽曲『閃光少女』では五感を頼りに人生を生きるというメッセージが歌われています。

この自分の感覚を頼りに生きるというものは10年以上続く、椎名林檎の確固たる考えなのでしょう。

こと切れるその時まで

丸腰の命をいま野放しに突走らうぜ

行く先はこと切れる場所 大自然としていざ行かう

一番サビです。 「丸裸のいま野放しに突走らうぜ」と感覚を剥き出しにしてひたすらに生き抜けと歌われます。

「行く先はこと切れる場所」つまり人は必ず最後は死ぬものなのだから、迷うことなんかなくどこまでも進もうということですね。

また「大自然へと向かう」という歌詞は一見すると山や川といった意味合いの自然へと向かうと捉えられます。

もちろんそういった意味でもあると思いますが、ありのままの自分でこの世を生き抜けという『獣ゆく細道』のテーマから人間の状態という意味合いでの自然も含まれてると考えられます。

全ての歌詞に強烈なメッセージが込められているパワフルなサビです。

苦悩を獣になって振り払って

そつと立ち入るはじめての道に震へてふゆを覚える

紛れたくて足並揃へて安心してゐた昨日に恥ぢ入る

気遣つてゐるやうで気遣わせてゐるんぢやあ 厭だ

自己犠牲の振りして

御為倒しか、とんだかまとゝ

謙遜する前の単に率直な態度を誇つてゐたいと思ふ

さう正体は獣

二番Aメロ〜Bメロです。

「足並揃へて安心してゐた昨日に恥ぢ入る」
「自己犠牲の振りして 御為倒しか、とんだかまとゝ」

など一番Aメロ〜Bメロと同様に自分の人生に苦悩する人々の姿が描写されます。

そして最後に「本性は獣」と綴り、本性は獣なのだから自分に素直になればそういった苦悩は振り払えると続くのです。

自分の感覚は自分にしか分からない

悴むだ命でこそ 成遂げた結果が全て

孤独とは言ひ換へりやあ自由 黙つて遠くへ行かう

 

本物か贋物かなんて無意味

能書きはまう結構です

幸か不幸かさへも勝敗さへも当人だけに意味が有る

二番サビ〜Cメロです。

「悴むだ命でこそ 成遂げた結果が全て」「孤独とは言ひ換へりやあ自由 黙つて遠くへ行かう」など自分でやると決めたことを成すとき不安や孤独は付きまとうものだと歌われます。

自分の感覚は自分にしかわからないものです。

よって周囲から理解されず、不安や孤独が付きまとうのはむしろ当然とも言えるでしょう。

だからこそ不安や孤独を飲み込んで前に進めばよいというメッセージがここでは歌われているのですね。

そして「幸か不幸かさへも勝敗さへも当人だけに意味が有る」とそんな精神状態になれば勝ち負けや幸不幸を決めるのも自分で他人は関係ない、と歌われます。

孤独や不安を全面的に肯定してくれる温かい歌詞ですね。

命を使い果たして己の道を突き進め

無けなしの命がひとつ だうせなら使ひ果たさうぜ

かなしみが覆ひ被さらうと 抱きかゝへて行くまでさ

借りものゝ命がひとつ 厚かましく使ひ込むで返せ

さあ貪れ笑ひ飛ばすのさ 誰も通れぬ程

狭き道をゆけ

大サビです。

「無けなしの命がひとつ」
「借りものゝ命がひとつ」

と命のことが歌われています。

無けなしとはたったひとつの替えのないもののこと。

そんな形容詞と借り物という言葉は矛盾するように思えます。

しかし、ここで命を借り物とみなすのはいつかは命を返す必要がある、つまり無くなってしまうものということを示すための比喩表現です。

替えのない大事なものだけれどもいつかは無くなってしまう。

それならばその大事さは認識しつつ「使い果たそうぜ」「厚かましく使い込んで返せ」と綴られるのです。

そして、最後に「誰も通れぬ狭き道を行け」と歌われます。

誰も通れぬ狭き道を行け、つまり自分の感覚が決めた周囲に理解されない道を行けと歌うのです。

自分の感覚に素直になったものが行く道、つまり『獣ゆく細道』を行けということですね。

おわりに

その話題度から2018年を代表する楽曲の一つとなる可能性が高い『獣ゆく細道』。

洒脱な曲を多く発表している椎名林檎のイメージとは裏腹に歌詞は非常に熱いメッセージが込められたものでした。

この今日のMVも大変熱のこもったものとなっているので歌詞とあわせてご覧になってみてください。

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