煮ル果実『イヱスマン』歌詞の意味を考察・解釈

何もかもを忘れたい もう何もかもを疑いたい?
全て貴方の身から出た錆が招いた事でしょう
骨の骨の髄迄 一寸先の闇までさ
やっぱりどっぷり不幸自慢沼浸かってんだ
(clap! clap! clap! clap!)

勝気な怒冷笑 隠して
売り捌く 苦言のピーテッドモルト
何気ない不干渉 隠して
ずっと舞ってりゃ良いでしょう

『大概大半 鬼畜な世の中
戦々恐々 夜を越えるだけ
平々凡々と暮らしてたいのさ
素敵だろう?』
「馬鹿な!」

屍人、屍人!
君の隣で
悪魔と踊る
白けたfunny day
舞ってるだけの朴念仁さ

屍人、屍人!
君の隣で
飽くまで踊る
機微丸めたブツ
待ってるだけの朴念仁さ

家畜な怒冷笑 斯くして
売れ残る 苦言のピーテッドモルト
いつまで不満症抱えて
立ち止まってりゃ良いんでしょう

そう嫌いなもんに面向かい
婉曲など皆無さ 大嫌いって
言ってしまえる貴方は まだ餓鬼で本当凄いね
まあ元々やる気も無いじゃん
もう戻る意味すらも無いじゃんって
自縄自縛った

『凡人 非凡人 大差は無いだろ
はいはいはいはい、頷きゃ良いのさ
正々堂々と生きていたいのさ
お分かりかい?』

まさに
屍人、屍人!
君の隣で
悪魔と踊る
これ見よがしに
舞ってるだけの朴念仁さ

屍人、屍人!
君の隣で
朝まで踊る
事勿れ主義
演じるだけの朴念仁さ

いつかのあの日に君の顔に貼り付いた
『失望』という題の絵画
頭から離れないんだよ
何故か気付いた頃にゃ
僕は大人というくだらない批評家になっていた
囲まれ看取られ なんて理想じゃなくて
心の中だけでいい 孤独じゃないまま
眠るようにして 幕を下ろしたいんだ

屍人、屍人!
君の隣で
悪魔と踊る
相も変わらず
舞ってるだけの朴念仁さ

呻吟、呻吟 死ぬ迄 乞うよ
呻吟、呻吟 あなたと果てたい
呻吟、呻吟 ここまで堕ちなよ
待ってるだけの朴念仁に
もう最高ですわ この人生は

これで満足ですか 御客様

煮ル果実『イヱスマン』の概要

今回は人気ボカロPである煮ル果実さんの楽曲『イヱスマン』の歌詞考察をしていきたいと思います。

筆者は今作が以下のタイプの人たちに向けられた歌だと解釈しました。

・環境に無条件で服従してしまう人の歌

・素朴で無愛想な人

上記のように解釈した理由を続く楽曲紹介と共にお話したいと思います。

『イヱスマン』は 2020年7月15日にリリースされる 2nd Album『SHIMNEY』 のリード曲となっています。

同アルバムには 未発表曲8曲と既存曲5曲の合わせて13曲が収録されています。
どれだけ隠し玉を用意してるんだよ煮ルさんって感じに贅沢アルバムです。

同年6月24日に『イヱスマン』のMVがネット上で公開されました。
動画再生回数は公開から僅か2日で10万を超える人気ぶりでした。

MVに注目してみましょう。

映像は 頃之介古論さんが担当しています。
スペシャルサンクスとしてWOOMAさんも参加していますね。

編曲は 煮ル果実さん&蜂屋ななしさんで行われました。
お互いが持つ独特の感性がデジタル世界で見事に調和していましたね。

安定のテクニカルな打ち込みと印象的なノイズや機械音が病みつきになります。

MVには主人公である一人の社会人男性が映し出されていました。
公式には「NOMAN(ノーマン)」と名づけられていました。
名前の持つ意味からも彼が「社会人」であることがわかります。

歌詞では彼の性格を表す次の用語が用いられています。

朴念仁(ぼくねんじん)―素朴で無愛想な人(主に男性に用いられる)

屍人(しびと)―生ける屍。無意識に行動する。

上記2点を複合して考えると、彼は会社において出来るだけ波風立てないように立ち回っていることが理解できます。

最初は自分の意見をはっきり述べていたのかもしれません。
また他者の意見を否定したりもしていたのでしょう。

しかし、上司や同僚から「環境に順応するよう」強要されたのかもしれません。彼は意識的に行動や言動を制御・抑制していたのでしょう。
それが習慣化し、無意識に行えるようになったと解釈しました。

この仮定を経ていった彼は、徐々に感情を失っていったと思われます。
結果として、周囲からは無個性また無愛想な人と判定されてしまったと考えました。

この点は煮ル果実さんの次のコメントによって裏付けられています。

肯定も否定も癖になって 生きながら死んでいるんじゃないかと まるで屍みたいだと感じる日々ばかりだけど それでも生きていくしかない そんな歌かもしれないです 末永く宜しく

https://twitter.com/vinegar_vinegar/status/1275743604716134402

サビで「屍人」がリフレインされている理由も納得です。

ここまでの理由から『イヱスマン』は、環境に無条件で服従してしまう人、また素朴で無愛想な人に向けられた歌であると解釈しました。

またMVには前作を連想させる衣類やグッズなどが登場してきます。
ウォーリーを探せの最後のおまけのような楽しみ方が出来るので、今作と比較して幾つ見つかるか探してみましょう(服、信号機、オズ、、、etc)

それではさっそく気になるタイトルや歌詞全体の考察を始めていきましょう。

『イヱスマン』の意味とは

タイトルの『イヱスマン』「上司など目上に対してご機嫌取りをする人」を指します。
また相手の意見に対して「肯定的な返答しかしない人」も指しています。

主人公の男性も、上司の言いなりになって過酷な労働条件を甘受していると思われます。

興味深いのが彼のNOMAN(ノーマン)という名前に対して『イヱスマン』というタイトルが設定されたことです。

これは当初、彼が「NO」と言えた事、しかし周囲の圧力から「YES」としか言えなくなったことを表現していると解釈しました。

日本は特に「ノー」と言えない人が多いと言われています。
集団行動を重んじ続けてきた結果、副作用とも言える主体性の欠如が目立ってきたという意見もあります。

こうした問題に苦しむすべての人に『イヱスマン』の歌詞は刺さることでしょう。

余談ですが、タイトルの「エ」だけ歴史的仮名遣いである「ヱ」となっています。
特徴としては、本来の「エ」と発音が異なり「ヱ」は「ウェ」と発音します。

今にも本音を吐き出しそうになっている主人公の様子を加味してのことなのではと考えました。

『イヱスマン』歌詞の意味

自分が選んだスタンス

何もかもを忘れたい もう何もかもを疑いたい?
全て貴方の身から出た錆が招いた事でしょう
骨の骨の髄迄 一寸先の闇までさ
やっぱりどっぷり不幸自慢沼浸かってんだ
(clap! clap! clap! clap!)

1番Aメロでは、主人公の職場でのスタンスと現状が歌われているようです。

歌詞冒頭で「忘れたい 疑いたい」と述べられています。

ここから彼が「すべてを無意識に肯定して生きる」「すべてを否定して生きる」かを迷っていることを理解できます。

両極端になった彼の性格を歌詞は客観的に「全て貴方の身から出た錆が招いた事でしょう」と指摘しています。

「不幸自慢」とあるように、彼は自分がどれだけ不幸かをアピールするかのように哀れな気持ちになってしまったようです。

(clap! clap! clap! clap!)は「拍手」を表しています。
歌詞全体は彼を客観視して、シニカルな言葉を投げかける形で綴られています。

虚偽の振る舞い

勝気な怒冷笑 隠して
売り捌く 苦言のピーテッドモルト
何気ない不干渉 隠して
ずっと舞ってりゃ良いでしょう

『大概大半 鬼畜な世の中
戦々恐々 夜を越えるだけ
平々凡々と暮らしてたいのさ
素敵だろう?』
「馬鹿な!」

Bメロから主人公が自分を偽って生きてきたことを読み取れます。

「勝気な怒冷笑を隠して」とはどういう意味でしょうか。

「怒冷笑」「怒」「冷静」「笑う」などを組み合わせたスラングだと考えました。
ですから周囲に勝った怒る、冷静、笑うといった感情を持ちながらも、それを心の奥底に隠していることを表現しているのでしょう。

「売り捌く」とは「立ち回り」のことだと考えました。
「ピーテッドモルト」とは「ピートをふんだんに使用した麦芽」です。
これを使用したウイスキーは独特のクセが生まれます。

ですから彼の基本的な性格がクセの強いものであること、しかし心の中で苦言を述べながらも上手に立ち回っていることを示唆しているのでしょう。

鬼畜な世の中」と表現されているように、過酷な職場環境で彼は戦いまた恐怖すら感じています。

「平々凡々と暮らしてたいのさ」と今の職場でのスタンスを維持するのがベストであると彼は述べています。

しかし「馬鹿な!」 と歌詞は客観的に彼の言い分を否定しているようです。

隣にいる屍人

屍人、屍人!
君の隣で
悪魔と踊る
白けたfunny day
舞ってるだけの朴念仁さ

屍人、屍人!
君の隣で
飽くまで踊る
機微丸めたブツ
待ってるだけの朴念仁さ

サビでは「君」が登場します。

筆者は「君」を主人公の中の「本当の自分」を指すと考えました。

そう考えた理由はBメロの歌詞で、虚偽の自分が「舞っている」ように表現されていたからです。

その表現はサビでも継続され「悪魔と踊る、、、舞ってる」と表現されています。

これまで歌詞は虚偽を振舞う彼に対してシニカルな言葉を投げかけてきました。
サビでは彼に主体性を取り戻し、本心を大事にするよう訴えているようにも見受けられます。

言いたいことも言えず、思考も感情も殺してしまった彼を「屍人」と呼んでいるようです。

「肯定」しかできなくなった哀れなイエスマンに「そんなんで生きてると言えるのか」と問いただしているようにも思えます。

「朴念仁」の説明は前述でしましたね。
彼の素朴で無愛想な態度に周囲からは「仕事はできるけどおもしろくない人」と評価されてきたかもしれません。

自身の中で相対するもの

そう嫌いなもんに面向かい
婉曲など皆無さ 大嫌いって
言ってしまえる貴方は まだ餓鬼で本当凄いね
まあ元々やる気も無いじゃん
もう戻る意味すらも無いじゃんって
自縄自縛った

『凡人 非凡人 大差は無いだろ
はいはいはいはい、頷きゃ良いのさ
正々堂々と生きていたいのさ
お分かりかい?』

この部分では主人公の中で2つの考えが相対しているのを観察できます。

1つは「嫌いなものを嫌いと否定する」という考えです。
これは主人公の本来望むスタンスです。

2つ目は「何も考えずに黙って肯定する」という考えです。
これは虚偽の自分から生まれた考えです。

自身の手によって生み出された虚偽の自分が、本心を捨てるよう強要しているかのように感じたことでしょう。

イエスマンになること、それすなわち「正々堂々」と胸張って生きることであると自分をせき立てるのです。

忘れられない失望―心の安らぎを望んで

いつかのあの日に君の顔に貼り付いた
『失望』という題の絵画
頭から離れないんだよ
何故か気付いた頃にゃ
僕は大人というくだらない批評家になっていた
囲まれ看取られ なんて理想じゃなくて
心の中だけでいい 孤独じゃないまま
眠るようにして 幕を下ろしたいんだ

この部分では「僕」という表現が登場してきます。
「僕」とは、主人公のことでしょう。

彼は「君」という虚偽の自分を生み出してしまったことを悔やんでいます。
君に『失望』が貼りついているのは、彼の失望によって生み出されたことを示唆しているのでしょう。

この「失望」とは、自分の意見が通らないこと、感情を表せば周囲からうとまれることを痛感したことと関連があるように思います。

彼は「大人という、、、批評家」と述べています。
これは何でも否定と肯定のみで真価を図るつまらない生き方をしてきたことを認めているようです。

否定も肯定にも飽き飽きした今、他人や物事を評価せず平穏に過ごすことはできないものかと考え出したのでしょう。

今の彼が切望するのは、眠るときのような心地よさや安らぎなのです。
孤独なイエスマンに幕を下ろしたいと呟いています。

苦痛の果てに

呻吟、呻吟 死ぬ迄 乞うよ
呻吟、呻吟 あなたと果てたい
呻吟、呻吟 ここまで堕ちなよ
待ってるだけの朴念仁に
もう最高ですわ この人生は

これで満足ですか 御客様

ラストでは主人公の苦痛なうめきが綴られています。

「呻吟(しんぎん)」とは「苦しんでうめくこと」です。
イエスマンに幕を下ろしたいと願いながらも、長年培ったきたスタンスを変えることが出来なかったのでしょう。

MVのラストでも、スタンスを変えられなかった主人公が壊れていく様が描かれていました。

彼は最後に自身で生み出した「君」という虚偽の自分と果ててしまいたいと願っています。

本心を吐き出し、苦言を吐き出し、葛藤を吐き出した彼が次に吐き出すことばは
やはり習慣づいた「イエス」なのでしょう。。

まとめ

いかがでしょうか。

否定を恐れた人が、肯定で自分を守るようになり、最後には否定も肯定も飽きてしまうという哀れな結末でした。

筆者の主観であり、別の考察や解釈がたくさんあると思います。
前作と類似するフレーズもたくさんありますので、是非探してみて下さい。

歌詞中で4回繰り返される英語や「家畜」「笑う」などから、前作「ハングリーニコル」を連想しました(あとANNA…マディ…長くなるね)

ともかく今作の主人公に共感した方は多かったのではないでしょうか。
言いたいこと言えない、自由に感情表現できない辛さは計り知れないですからね。

煮ル果実さんの今後の活動と次回作にも期待し注目していきたいと思います。
共感しやすく考え深い作品をありがとうございました。

ここまで記事を読んで下さった皆さんにも感謝します。
ありがとうございました。

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