Mr.Children『HANABI』歌詞考察・相反と苦悶の輝き

どれくらいの値打ちがあるだろう?
僕が今生きているこの世界に
全てが無意味だって思える
ちょっと疲れてんのかなぁ

手に入れたものと引き換えにして
切り捨てたいくつもの輝き
いちいち憂いていれるほど
平和な世の中じゃないし

一体どんな理想を描いたらいい?
どんな希望を抱き進んだらいい?
答えようもないその問いかけは
日常に葬られてく

君がいたらなんていうかなぁ
「暗い」と茶化して笑うのかなぁ
その柔らかな笑顔に触れて
僕の憂鬱が吹き飛んだらいいのに

決して捕まえることの出来ない
花火のような光だとしたって
もう一回もう一回
もう一回もう一回
僕はこの手を伸ばしたい
誰も皆 悲しみを抱てる
だけど素敵な明日を願っている
臆病風に吹かれて 波風がたった世界を
どれだけ愛することができるだろう?

考えすぎて言葉に詰まる
自分の不器用さが嫌い
でも器用に立ち振舞う自分は
それ以上に嫌い

笑っていても
泣いて過ごしても平等に時は流れる
未来が僕らを呼んでる
その声は今 君にも聞こえていますか?

さようならが迎えに来ることを
最初からわかっていたとしたって
もう一回もう一回
もう一回もう一回
何度でも君に逢いたい
めぐり逢えたことでこんなに
世界が美しく見えるなんて
想像さえもしていない 単純だって笑うかい?
君に心からありがとうを言うよ

滞らないように 揺れて流れて
透き通ってく水のような
心であれたら

逢いたくなったときの分まで
寂しくなったときの分まで
もう一回もう一回
もう一回もう一回
君を強く焼き付けたい
誰も皆 問題を抱えている
だけど素敵な明日を願っている
臆病風に吹かれて 波風がたった世界を
どれだけ愛することができるだろう?

もう一回もう一回
もう一回もう一回


はじめに

Mr.Childrenの楽曲『HANABI』は、2008年9月発売のシングル曲。
そして『HANABI』は同じく2008年にフジテレビ系ドラマ「コード・ブルー‐ドクターヘリ緊急救命」の主題歌として起用されました。

その後、10年の時間を経て、2018年7月、再び「劇場版コード・ブルー‐ドクターヘリ緊急救命」の主題歌となり、Mr.Childrenの代表曲として、強い人気を誇る楽曲となっています。

今回は時を超えてなお色褪せることない『HANABI』の歌詞世界をゆりはるなが紐解いていこうと思います。

タイトル『HANABI』の意味とは

夏の夜空を彩る花火。一見、派手だったり華やかに思える『HANABI』ですが、ここで描かれるのは、出逢いと別離。
生と死。自己嫌悪にもがき苦しむ姿です。

歌詞に「君」という表現がありますが、「君」が誰を、何を指しているのかは明言されません。「君」こそが実は『HANABI』であり、高く舞い上がって燃えて輝き、消えていく。

あまりにも美しいのに、一瞬ののちには消滅する。その儚さを憂うでなく、ただ精一杯に空に上ろうとする花火の姿が、生きとし生けるものたちの命へと重なります。


『HANABI』歌詞の意味

喪失を悔い平凡を生きる

どれくらいの値打ちがあるだろう?
僕が今生きているこの世界に
全てが無意味だって思える
ちょっと疲れてんのかなぁ

手に入れたものと引き換えにして
切り捨てたいくつもの輝き
いちいち憂いていれるほど
平和な世の中じゃないし

人も動物も、この世界に生きるものは、全ていつかは消えてなくなってしまいます。
私たちは、当然それを知っているのだけれど、思いださないように、考えないようにして暮らしているのかもしれません。

そうしなければ苦しみすぎるからです。いつか死ぬ、いつかいなくなること――それは究極の恐怖。

しかし、人は自分に残された時間が有限であることを分かりすぎているがためにこそ、微かな喜びや輝きを、美しいと感じることができるのだと知っています。

答えを見出せないまま、少し疲れてる、で片付けてしまいえない真実を、信じたいけれど信じ切れない心情の吐露が続きます。


「君」は一体誰

一体どんな理想を描いたらいい?
どんな希望を抱き進んだらいい?
答えようもないその問いかけは
日常に葬られてく

君がいたらなんていうかなぁ
「暗い」と茶化して笑うのかなぁ
その柔らかな笑顔に触れて
僕の憂鬱が吹き飛んだらいいのに

日々の生活に奔走しながら、人は生きる意味を探さずにはいられない。
なぜ自分がここにいるのか、本当はどう生きていきたいのかを知りたいのです。

しかし、答えが見つかりません。
見つかるはずもないでしょう。その答えはないからです。

そして悩む自分へ「暗い」と笑ってくれたらと願う「君」はそばにいません。
「君」が人であるとも限りません。
「君」の不在は『HANABI』の歌詞世界に色濃く描かれている、永遠の別れを象徴しています

「君」の柔らかさや笑顔には、もう既に手には届きません。
「君」とは一体誰なのでしょうか。

届かない、愛したい

決して捕まえることの出来ない
花火のような光だとしたって
もう一回もう一回
もう一回もう一回
僕はこの手を伸ばしたい
誰も皆 悲しみを抱てる
だけど素敵な明日を願っている
臆病風に吹かれて 波風がたった世界を
どれだけ愛することができるだろう?

迷いや憂鬱が綴られた末に「花火のような光」という美しく儚い輝きを持つ言葉があらわれます。
夏祭りで見る花火がぱっと燃え、一瞬で跡形もなく消える。
どれほど願っても、きっとこんな輝きを手に入れることは不可能です。

だからこそ美しいのでしょう。だからこそ悲しくも素敵な明日を心に描けるのでしょう。

手に入らないと分かっていてなお、それに手を伸ばす――生きている限りその輝きを忘れずにいたいという願いです。
人は苦しみ悲しみを消し去ることは出来ませんが、明日を夢見る力を持つことができます。それがたとえやってこない明日だとしても、儚くとも一瞬だとしても、精一杯燃えて輝き、散っていく花火のような美しさを持ちたいと願います。


どんな自分も大嫌い、そこからが始まり

考えすぎて言葉に詰まる
自分の不器用さが嫌い
でも器用に立ち振舞う自分は
それ以上に嫌い

笑っていても
泣いて過ごしても平等に時は流れる
未来が僕らを呼んでる
その声は今 君にも聞こえていますか?

子供の頃のように、大笑い出来たら。大泣き出来たら。
思い切り甘えられたら。思い切り不機嫌になれたら。
何も考えず、ただただ純粋な魂のまま生きていけたら。

そんなことへの切なる憧憬と、正反対というべき激しい嫌悪が、毎日毎日同時に心に沸き上がり。
そして平等に流れる時間の中で、現在は否応なく過去になり、避けられない死の臭いは確実に強くなってくる。

限られた命をどうすべきかなのか、どう生きるべきかの答えが分かりません。どんな風に生きようと、未来は誰にも見えないのです。いつか死んでもなくなるという未来以外は。

それでも、生きていられる一瞬の命の未来を懸命に生きようという声が聞こえると信じたい。今はもういない「君」、今生きることに疲れ切っている「君」、自分自身へと、その声を信じていてほしいと願います。

やり直せるなんて甘い現実はないから

さようならが迎えに来ることを
最初からわかっていたとしたって
もう一回もう一回
もう一回もう一回
何度でも君に逢いたい
めぐり逢えたことでこんなに
世界が美しく見えるなんて
想像さえもしていない 単純だって笑うかい?
君に心からありがとうを言うよ

『HANABI』という言葉に込められた想いは、「迎えに来るさようなら」そのものなのかもしれません。

なぜ私達は、あっという間に燃えて消える花火を美しいと感じるのでしょうか。
なぜ必ず枯れてしまう花を奇麗だと思うのでしょうか。
きっともう逢えないから、その姿は強く心に焼き付くのでしょう。

「もう一回もう一回 何度でも」――それは絶対に不可能なのです。

皆が本当はそれを分かっている。
だからこそ世界は美しいのです。
それさえ知っていれば、いつか自分が消えるとしても、生きる価値があると信じられる。

その美しさを信じさせてくれる「君」――「花火」とめぐり逢えたから、生きる意味は分からずとも、せめて生まれてきて良かったと心から思えるのです。


不可能でも、願うことは無意味ではない

滞らないように 揺れて流れて
透き通ってく水のような
心であれたら

滞らず透き通るなんて、人として生きているならば不可能なこと。

ここに表されている言葉には河が連想されます。
狭い箱の中――例えば小さな水槽や水族館の中にに閉じ込められるのではなく、降り注いだ雨から湧き水となり、河になり、やがて海へと旅するような心を持ちたい。

そうなれないことが生まれた時から決まっている私たちは、せめて、心のどこかに透き通った濁りない水のような魂を持っていたいと願います。

一生問いかけ続ける強さが「君」

逢いたくなったときの分まで
寂しくなったときの分まで
もう一回もう一回
もう一回もう一回
君を強く焼き付けたい
誰も皆 問題を抱えている
だけど素敵な明日を願っている
臆病風に吹かれて 波風がたった世界を
どれだけ愛することができるだろう?

もう一回もう一回
もう一回もう一回

その一瞬を逃せば、きっともう「君」と逢うことはないかもしれません。
別離の理由が何であれ。

繰り返し歌われる「もう一回もう一回」は、未練に対するもがきの言葉のように聞こえます。
しかし、同時に問いかけます。

世界を愛することが出来るだろうかと。世界とは、自分の内側の世界。
「君」に逢えず、己を嫌悪し、生きることに価値という大そうな言葉を持ち出しては、ぐちゃぐちゃと痴鈍を垂れ流した内面の泥水が風と波になっても、その世界を愛することができるのか。

『HANABI』が、「君」が、そうしたように。

まとめ

Mr.Children『HANABI』LIVE映像のアコースティックギターでのイントロは、思わず心に込み上げてくるものがあります。
こちらも機会があればぜひご覧になってみてください。

『HANABI』の歌詞をじっくり読んでみると、そこには相反する概念や語句が多用されています。何が普通で何が異常か。何が美しく何が醜いか。そしてそれを決めるのは誰なのでしょうか。

Mr.Children『HANABI』は、そういった、人として避けられない苦しい葛藤が描かれている楽曲のように思います。そして同時に、だからこそこの世界が美しいのだと気が付かされます。

2008年の発売から2018年、10年を過ぎても『HANABI』は色褪せることなく人々の心を捉え続けています。

 

 

 

 

 



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