あいみょん『今夜このまま』歌詞考察・渇望の癒えぬ生真面目な酔っぱらい

苦いようで甘いようなこの泡に
くぐらせる想いが弾ける
体は言う事を聞かない
「いかないで」って
走ってゆければいいのに

広いようで狭いようなこの場所は
言いたい事も喉に詰まる
体が帰りたいと嘆く
「いかないで」って
叫んでくれる人がいればなぁ

抜け出せない
抜けきれない
よくある話じゃ終われない
簡単に冷める気もないから
とりあえずアレ下さい

消えない想いは
軽く火照らせて飛ばして
指先から始まる何かに期待して
泳いでく 溺れてく
今夜はこのまま 泡の中で眠れたらなぁ

だんだん息もできなくなって
心の壁も穴だらけで
制御不能 結構不幸?
自暴自棄 です。

そんなに多くはいらないから
幸せの横棒ひとつくらいで
満たされたい 満たしてみたい
乱されたい 会いたい
いつかの誰かに

やるせない
やりきれない
よくある話じゃ終われない
簡単に辞める気もないから
とりあえずアレ下さい

言えない想いは
軽く飲み込んで 隠しちゃって
鼻の先に取り付いた本音に油断して
抱かれてく 騙されてく
今夜の夜風に
吹かれながら 揺れながら

ねぇ もう 帰ろう 帰ろう
影も もう ねぇ 薄くなって
結局 味のない 味気のない

夜が眠る

癒えない想いが
加速するばかりなんだ
止められない
放たれてく 夜になる
私はこのまま

消えない想いは
軽く火照らせて飛ばして
指先から始まる何かに期待して
泳いでく 溺れてく
今夜はこのまま
泡の中で眠れたらなぁ

誰かの腕の中で
甘い夢を見ながら
眠れたらなぁ


はじめに

あいみょん『今夜このまま』は2018年11月14日発売の、彼女の6thシングル。

同時に2018年10月にスタートした日本テレビ系ドラマ「獣になれない私たち」の主題歌です。

ドラマの中の不器用だけれど、ひたむきな心を持った「獣になれない­=本音になり切れない」キャラクター達の織り成す物語は、『今夜このまま』に見られる「ポップでありながら個性的で官能的」なあいみょん節とも言える歌詞世界と巧みに絡み合います。

今回は、そんなポップで個性的で艶やかな、あいみょん『今夜このまま』の歌詞を、ゆりはるなが考察していこうと思います。

タイトルの意味『今夜このまま』…どうなりたいの?

オフィシャルサイトに掲載されたインタビューにて『今夜このまま』について

「〈自由にやってください〉って言ってもらってたので、自由にやりつつ、ドラマとリンクさせる部分もあればいいかなって、歌詞とビールをかけて、あとはスラスラ書けました。初めてのドラマ主題歌だったので、〈これぞあいみょん〉って感じの方がいいかなとも思ったんですけど、曲を提供する上で〈自分らしさを出し過ぎないことも大事〉(中略)それは結構意識したかもしれないです。ちゃんとドラマに寄り添いつつ、スパイスとして自分を出せたらいいかなと思って、私らしいちょっと官能的な要素も自然と入ってますね」

と語っているあいみょん。

ドラマのストーリーに欠かせない「ビール」をキーワードにして、「官能」という要素も混じってくる……。

酒の勢い……。

ではないけれど、夜の妖しさとお酒の香り漂う『今夜このまま』なる刺激的なタイトルの後に続く言葉とは。少し危険な、普通では言えないこと、言いにくいようなこと、本当はやっちゃだめかもしれないこと。

けれどしたくてたまらないこと――渇望――が『今夜このまま』というタイトルに仄めかされているかのようです。


『今夜このまま』歌詞考察

自分の中に居場所が作れない自分がいた

苦いようで甘いようなこの泡に
くぐらせる想いが弾ける
体は言う事を聞かない
「いかないで」って
走ってゆければいいのに

広いようで狭いようなこの場所は
言いたい事も喉に詰まる
体が帰りたいと嘆く
「いかないで」って
叫んでくれる人がいればなぁ

ドラマ「獣になれない私たち」の主人公たちが出会うのは、とあるクラフトビールバー。

『今夜このまま』の歌詞では、このバーという独特な空間・あるいは空気感を非常に巧く表現しているように思います。
きっとそれは、孤独な大人たちにとって居心地が良く、ずっと居られるならばそうしたい、だけど、そうできない場所なのです。

ほんの短い時間、許された場所での苦いような甘いような想いがビールの泡に例えられます。
ビールを飲んで泡が減っていくほどに、酔いは回っていきますが、泡が弾けるごとに、なぜかそこに込めた想いや夢や希望も弾けて消えていくような気分。

どうせ酔うならもっと気持ちよく酔いたい、もっと明るくなりたい……なんで暗くなったり辛くなったり嫌なことを思い出したりするんだろう。

あれ、あの人もう帰っちゃうんだ……自分ももう帰った方がいいかなあ。

――様々な本音が泡の中で弾け、「すごく楽しい、だけど、すごく寂しい」気持ちが浮かんでは消えていきます。


とりあえず「アレ」。意味は聞かないで

抜け出せない
抜けきれない
よくある話じゃ終われない
簡単に冷める気もないから
とりあえずアレ下さい

なんだか分からないが、どうしようもなく物足りない。
いっそ、本能的で肉体的な渇望すら感じているのかもしれない。

このまま、「じゃあまた」と手を振って出ていくことも出来ず。

「わかるわかるー」なんて人の話に相槌を打って、今夜を「よくある飲み会」で終わらせられない状態になっているのが、自分ではだんだんと分かってきている……。
けれども状況を打開する方法は見つからず、とりあえずと布石を打って「アレ」を頼む姿。

「アレ」がもうビールだとは限りません。

甘く、口当たりがよく、どんどん飲めるけれど、恐ろしく度数の高い官能的な「アレ」なのかもしれません。

期待と裏腹に意識は遠のく

消えない想いは
軽く火照らせて飛ばして
指先から始まる何かに期待して
泳いでく 溺れてく
今夜はこのまま 泡の中で眠れたらなぁ

酔っぱらうことで何か変わったらいいのになって、飲む前に期待して、飲んで酔ってふわふわしたり大笑いしたりしても、ふと、根本の自分は全く変わっていないんだと気が付くことがあります。

先ほど頼んだ「アレ」は、本当に欲しい「アレ」じゃなくて、いいところ「ジントニック」程度だったかもしれません。

いっそ泥酔寸前までいってみたい、意識を失うくらいトんでみたい欲望も薄っすらと滲みますが、根が真面目で不器用な酔っ払いには、「…だったらいいのになあ」と、夢見ていることくらいしかできないでいます。


いつかの誰かと横棒1本で満たしあいたい

だんだん息もできなくなって
心の壁も穴だらけで
制御不能 結構不幸?
自暴自棄 です。

そんなに多くはいらないから
幸せの横棒ひとつくらいで
満たされたい 満たしてみたい
乱されたい 会いたい
いつかの誰かに

人間不信に陥ったのか、ますます状況は悪くなってきている様子。
冷静に自分を観察していますが、その分、自己評価はどんどん下がっていきます。

自暴自棄という言葉には自棄酒を思い起こします。
泥酔しているような、止められてももっと飲んで飲んで、何もかも忘れてしまいたい気分。

そして、少しばかり自傷行為ともとれる表現も混じります。
「いつかの誰か」に「乱されたい」「会いたい」というのは、かなり危険な思考に陥っています。

けれど、自分の価値を見出せず、人のぬくもりやへのあからさまな欲望ばかりが泡のように溢れ、自傷行為すれすれの幸せすら願ってしまいます。

まだ帰らない、その言い訳と本心

やるせない
やりきれない
よくある話じゃ終われない
簡単に辞める気もないから
とりあえずアレ下さい

何をしても今は、どうにも満たされず、心がすっきり晴れることがありません。

八方塞がりの中、結局、生真面目なまま酔いつぶれ、悪いことや危険なことをするでもなく、肉体の内側が甘く美味しいはずの「アレ」が欲しい、と懇願しているばかり。

とりあえず今、何もないままでこの場所から帰るには、あまりに虚しすぎるから、「とりあえずビールか何かのアレ」本心を隠して。


自分で自分を騙し騙し

言えない想いは
軽く飲み込んで 隠しちゃって
鼻の先に取り付いた本音に油断して
抱かれてく 騙されてく
今夜の夜風に
吹かれながら 揺れながら

言葉にしないままでも、鼻先に香る甘いお酒の匂いにむせたような本音が、相手にも伝わっているものとつい信じてしまう。

核心に触れないままでも、『今夜このまま』の先の一瞬幸福を味わうことが出来るかもしれない。

ところが、だんだんと、いや最初から、しらふになればなるほど、自分で自分を騙し、自分で自分を孤独に抱いていることが分かっています。

薄い夜と絶望の朝

ねぇ もう 帰ろう 帰ろう
影も もう ねぇ 薄くなって
結局 味のない 味気のない

夜が眠る

朝が来ます。
朝が来てほしくないのに、必ず、絶対に朝は来ます。

朝は、夢から覚めてしまうこと――絶対的な孤独を象徴しています

強力な黄金の朝に照らされて、薄くなる影と共に、小さな泡に絡めた、心と体の渇望が全て弾けて飛び、しぼんでいくようたった一人で、帰らなくてはならない朝がやってきます。
何も期待通りにいかない夜に失望しながら、朝に打ちのめされる前に、逃げかえりたい想い。

終わりにするつもりはまだない

癒えない想いが
加速するばかりなんだ
止められない
放たれてく 夜になる
私はこのまま

黄金の朝に対して、自分は傷ついた想いが癒えなくとも、夜のまま。
明るい幸せや晴れやかな光が、今欲しいのではない。

今はただずっと『今夜このまま』が続いていてくれたらいいのに。

本当の気持ち・やるせなかった気持ち・簡単に終わりにしたくなかった気持ち・乱れたいと思う気持ち・満たし満たされたいと思う気持ち・それは、朝ではだめなのです。

『今夜』、『このまま』でなければ、充溢することはないのです。

一人で立って帰る朝

消えない想いは
軽く火照らせて飛ばして
指先から始まる何かに期待して
泳いでく 溺れてく
今夜はこのまま
泡の中で眠れたらなぁ

繰り返される煩悶に、解決法が見つかりません。
今出来ることと言えば、どうしても消すことの出来ない想い――渇望――を心に灯し、成り行きの中を漂っていくことだけなのかもしれない。

けれど、根が生真面目なこの酔っ払いは、人生の日月を漂いながらも、どこかで必ず自分を律しています。

欲望にどん底まで溺れるでなく、朝が来ることに絶望したり諦めきったりするでなく

決定的に何かが足りない日々の中、泡のように弾ける激しい感情が渦巻いていようとも、たった一人、帰路につくのです。

嘘じゃない、本当にそう思う、多分

誰かの腕の中で
甘い夢を見ながら
眠れたらなぁ

少し自嘲気味な言葉と共に『今夜このまま』が締めくくられます。
このまま一人で眠り、朝を迎え、二日酔いでフラフラして、また夜が来て酔いつぶれるのかもしれません。

まだ何一つ願いはかなっていないとしても、人々はそれぞれが、決して一瞬の衝動や「とりあえずのアレ」でない愛や夢や(肉体も含めた)ぬくもりを求め、そして誰かと幸せな時間を分かち合いたいと渇望してやみません。

それが、可能かどうかは別にしても。

まとめ

あいみょん『今夜このまま』は、タイトルからして、とても内容が気になる楽曲。そしてドラマの内容とリンクし、隠喩を用いて聴く人に行間を想像させる歌詞がいつもながら見事ですね。

曲調は軽快で、何回聴いても飽きません!

PVでは一人、いかだ?のような舟に乗ったあいみょんさんが河を漂う、青い色調が美しい映像です。このPV映像もお勧めですので、ぜひご覧になってみてくださいね!

では最後まで読んで頂きありがとうございました!



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