椎名林檎『長く短い祭』歌詞の意味・考察と解説


天上天下繋ぐ花火哉
万代と刹那の出会ひ
忘るまじ我らの夏を

場違ひに冷え切つた体を
人熱に放つて流し流され
思へば遠くへ来たものだ

人生なんて飽く気ないね
まして若さはあつちう間
今宵全員が魁、一枚目よ

皆銘々取り取りの衣裳
奔放な命を被ふ化粧
隠すまじ我らは夏よ

何か知ら落ち込むだ心は
人熱彷徨つて流し流され
思へば遠くへ来たものだ

永遠なんて素気ないね
ほんの仮初めが好いね
愈々宴も酣、本番です

皆銘々選り取り全方位
獰猛な命燃やす匂ひ
臆すまじ我らは夏よ

一寸女盛りを如何しやう
この侭ぢや行き場がない
花盛り色盛り真盛りまだ

丁度大輪の枝垂れ柳
蘇るひと世の走馬灯
逃すまじ我らの夏を

一寸女盛りを如何しやう
この侭ぢやまだ終れない
花盛り色盛り真盛りまだ


はじめに


2015年に発売された椎名林檎の16枚目のシングル、『長く短い祭』。
コカ・コーラのCM曲として起用されたこともあり、YoutubeのMV再生回数は実に3951万回(2018年10月現在)と大きな話題となりました。
また椎名林檎はこの曲で2015年の紅白歌合戦に出場しています。
ジャケット写真には青森の代表的な夏祭りねぶた祭りが用いられていて、歌詞も夏を大いに感じさせる内容です。
では果たして『長く短い祭』の歌詞とはどのようなものでしょうか。説明・解説を行ってまいります。

歌詞考察


夏の思い出は花火のごとく


天上天下繋ぐ花火哉
万代と刹那の出会ひ
忘るまじ我らの夏を


頭サビです。
「万代(とこしえ)と刹那の出会ひ」 という歌詞はまるで花火のようにあっという間に過ぎるけれど永遠に忘れない夏の思い出のことを表しています。
タイトルの『長く短い祭』も同様にそんな一夏の思い出のことを指しています。
頭サビにこの歌詞を持ってくることで、この曲はそんな思い出の歌であることをまず示しているのですね。


夏祭りの喧騒、熱気。


場違ひに冷え切つた体を
人熱に放つて流し流され
思へば遠くへ来たものだ

人生なんて飽く気ないね
まして若さはあつちう間
今宵全員が魁、一枚目よ


一番Aメロ〜Bメロです。
「場違ひに冷え切つた体を 人熱(ひといきれ)に放つて流し流され」という歌詞からは人でごった返す夏祭りの情景が思い起こされます。
そして「思えば遠くへ来たものだ」と続きます。
この歌詞では人混みの流れに身を任せた結果、どこかよく分からない所に来てしまい呆然としている姿が描かれています。
ちなみにこの曲の主人公は後に綴られる「女盛りを如何しやう」という歌詞から分かるように女性です。
この歌詞の妙は一度も「夏」や「祭り」といった直接的な表現を用いていないことです。
そういった表現なしでもそうとしか考えられない秀逸な情景描写ですね。
そして「今宵全員が魁、一枚目よ」と続きます。
魁、一枚目とはいずれも主役といった意味合いの言葉です。
夏祭りに来ている人達は皆浴衣を着たり恋人と来ていたり、それぞれ特別な一時を過ごそうとしているものです。
そんな人々を指して「魁、一枚目よ」と歌われるのです。


華やいだ真夏の熱気を描く


皆銘々取り取りの衣裳
奔放な命を被ふ化粧
隠すまじ我らは夏よ


一番サビです。
「皆銘々取り取りの衣裳」とあるようにここで描かれるのは夏祭りに思い思いの衣服に身を包む人々の姿です。
大半は浴衣でしょうか。 浴衣の様々な色で溢れる人だかりは夏祭りに華やぎをもたらしてくれますね。
そして「隠すまじ 我らは夏よ」とそんな華やぎをもたらす浴衣を身にまとった人々はその存在自体が夏と呼べるほど、活気に溢れているのだと歌われます。
人々の活気で賑わう夏祭りの情景が目に浮かぶようですね。


夏の賑わいは落ち込んだ心も忘れさせて


何か知ら落ち込むだ心は
人熱彷徨つて流し流され
思へば遠くへ来たものだ

永遠なんて素気ないね
ほんの仮初めが好いね
愈々宴も酣、本番です


二番Aメロ〜Bメロです。
「何か知ら落ち込むだ心は 人熱(ひといきれ)彷徨つて流し流され」という歌詞からこのパートは始まります。
夏祭りに来ているにも関わらず「落ち込むだ心」というのは只事ではないですね。 一緒に来ていた人と喧嘩して別れてしまったのでしょうか。
「永遠なんて素気ないね ほんの仮初めが好いね」 という歌詞には人の気持ちなんてすぐ変わるものなんだというようなやさぐれた気持ちが見え隠れするようです。
しかし最後には「愈々(いよいよ)縁も酣(たけなわ)、本番です」とクライマックス、花火を楽しむことを決めるのです。
これまで説明してきた夏祭りの賑わいが落ち込んだ心を吹き飛ばしてくれたのでしょう。
主人公の落ち込んだ描写をあえていれることにより夏の熱狂を引き立たせる歌詞ですね。


打ち上がる花火を見て燃え上がる心


皆銘々選り取り全方位
獰猛な命燃やす匂ひ
臆すまじ我らは夏よ

一寸女盛りを如何しやう
この侭ぢや行き場がない
花盛り色盛り真盛りまだ

丁度大輪の枝垂れ柳
蘇るひと世の走馬灯
逃すまじ我らの夏を

一寸女盛りを如何しやう
この侭ぢやまだ終れない
花盛り色盛り真盛りまだ


二番サビ〜大サビです。
「皆銘々選り取り全方位」「獰猛な命燃やす匂ひ」 からは花火を見上げ賑わう人々の活気が描かれています。
そして「一寸(ちょいと)女盛りを如何しやう この侭(まま)ぢや行き場がない」で描かれるのは花火を見て盛り上がるも、恋人と離れてしまい思いの行き場を失ってしまった主人公の心。
そして「花盛り 色盛り まな盛りまだ」と恋人と喧嘩別れをし落ち込んだものの人々の、熱気や花火によってまだまだ人生これからだと思いを新たにするのです。
きっと恋人とよりを戻すかまた新たな恋をするのだと思います。
ちなみに歌詞に出てくる「大輪のしだれ柳」とは花火の種類のこと。
しだれ柳を見つめながら、「蘇るひと世の走馬灯」とこれまでの様々な思い出を振り返っているのでしょう。
夏祭りの喧騒、浴衣に身を包む人々の活気、夜に浮かぶ花火、それらを受けて一人燃え上がる主人公・・・。 『長く短い祭』という名の真夏の狂乱が見事に描かれている夏の名曲です。


終わりに


今回は椎名林檎の『長く短い祭』の歌詞考察を致しました。
夏祭りという人々の気持ちが最も盛り上がる行事の一つを舞台にしたこの曲の情景描写や心理描写はもはや曲を聞かずとも、歌詞を読むだけで気持ちを浮つかせられてしまいます。
きっと夏の代表曲としていつまでも候補として挙げられることでしょう。
ぜひこの曲を聞く際には歌詞を見ながら聞いてみてください。自然と体が揺れてくると思います。

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